story:Volume:10 「終わりと始まり」
2018.10.24
こうして思い返してみると、この空間に出会う前から本当に色々なことがあった。
でも今は、その1つ1つの点はすべて線で繋がっていて、ある1つの方向に向かっていたようにも思える。
まぁ、それに気がつくのは、随分と時が経ってからだけれど・・・
もう何件の物件を見て「なんか違う・・・」を繰り返してきたんだろう?
出てくる物件の質は上がっても、それでも「これだ!」っと思える物件はなかなか思うようには見つからなかった。
トモに声をかけてからもう半年? 1年・・・?
延々と続く物件探しに再び嫌気がさし始めた頃、久しぶりに「これは?!」っと思える物件情報が舞い込んできた。
うっすらとした記憶だけれど、東京大田区にある3階建の小さなビル。ワンフロアが80平米、家賃40万円。
そしてなにより「改装可能」・・・・きたか!
都内の一棟貸しのビルで家賃とのバランスを考えると、もともと駅近くの物件なんて期待していなかったけれど、この物件は小さい駅ながらも駅から徒歩2分・・・
久しぶりの期待に胸が高鳴った。
すぐに不動産屋さんにアポを取り物件の前に立つ。
築年数を重ね決して綺麗なビルではないけれど、十分な広さと雰囲気。
賑やかな街とは言い難かったが、懐かしい商店街の空気感。駅からはやはあり随分と近い。
まだその街のことをよく知らなかったからすぐに「決めた!」とはならなかったけど、実際に物件を目にしたことで頭の中のイメージはどんどん膨らみ、ワクワクが止まらなかった。
そうだ、とりあえずトモにも連絡してみよう。
「それっぽいのが見つかったから、一度見てみようよ」
そんな話をしようと電話をかけたが繋がらず。なんだよアイツ、こんな時に〜。
あぁ、そうか。そういえば今日は湘南の方で飲み会だって言ってたな・・・・
自分も行く予定だったことをその時思い出したけど、せっかく見つけた物件のことをあれこれ考えたくて、その日は予定をキャンセルし、朝まで夢中になってノートに書き込んでひとり楽しい夜を過ごした。
イメージノートにワクワクを描き殴るうちに、ふと気がつくと朝になっていた。
やべ、朝になっちゃった・・・
眠い目をこすりながら、何気なくメールを立ち上げる。
「?・・・」
そして、その中の一通のメールが全てを一変させた。
それはトモの訃報だった。
仲間と酒を飲み、倒れ、そのまま逝ってしまった。
「は? 何言ってんの・・・?」
しばらくは涙も出なかった。
完全に頭がフリーズして、何を考えたらいいのかわからなかった。
ただ、夢遊病者のように外に出て、近所のコンビニに向かい、何かを買って、店を出た。
朦朧とした頭でただ歩いた。少しずつ、胸の奥の方から何かが湧き上がってくる・・・
そして立ち止まると、もう動けなかった。
「全部終わった・・・」
ただなんとなく、そんな言葉が頭の中に浮かんだ。
身体の、人生の半分をもぎ取られたような、そんな気持ちだった。
「俺はひとりでもやる」
そんな言葉は、完全にどこかに吹っ飛んでいた。
もうどうでもよかった・・・・
それが2010年8月20日の出来事だった。
その2日後。
いい加減、泣き疲れてだるい心と身体を引きずって、最後のお別れをしにトモの地元、福井へ向かった。