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story:Volume:14 「変わっていく理想」

2018.11.6

上野で見つけた素敵な物件。

3度の内見を経て家賃などの交渉を終え、実際に具体的な内装のイメージや間取りを考え始める段階までたどり着いた。

しかし、ようやく見つけた理想的な空間に胸躍らせながら、いよいよお金の問題にガッツリと向き合おうかという矢先に、その日はやってきた・・・・

そう、2011年3月11日。東日本大震災。

 

地震によって僕が大きな被害を被ったわけでも、上野の物件に不具合が起きたわけでもなかったが、当然のように交渉は一時的にストップし、同時に「今はそんなことしてる場合じゃね〜だろ」という気持ちにも包まれた。

地震から2週間ほどしてアニキやその仲間たちと現地でのボランティアとして活動させてもらったことも大きかった。

想像をはるかに超えて目の前にある「現実」は、自分のちっぽけな「理想」なんて跡かたもなく吹き飛ばした。

とにかく今は「自分」とか言ってる場合じゃない・・・・それだけだった。

そこから数ヶ月は東京で最低限の仕事をこなしながら、アニキが中心になって立ち上げたボランティアチームの手伝いをする日々が続いた。

その間に上野の物件交渉は自然消滅し、3ヶ月ほど経って不動産屋さんから「すでに借り手が現れた」ことを告げられた。

まぁ、それに関しては大したショックもなかった。そういう流れだったんだからしょうがない。

地震から半年ほど経った時、少し心が落ち着きはじめて再び物件探しを始めた。

 

ただひとつ。

この地震で、そしてボランティアでの強烈な体験で、個人的に強く意識させられたことがあった。

それは「自分の手でモノを生み出す人の力」だ。

23歳からデザインの世界に足を踏み込んで、何十冊もの本を作ってきた。

売れない時期もあったが、まがりなりにも何冊かのベストセラーも出した。

「アーティスト」という言葉はあまり好きではないけれど、少なくとも自分はデザイナーであり、モノづくりに携わる人間だという気持ちがあった。

でも、どうだろう・・・

僕が作ってきたものはほとんど全てが「パソコン」によるグラフィックデザインだ。

「元気があればなんでもできる」なんてトモがよく言っていたが、まさにその逆だ。

「電気がなけりゃ、なんにもできね〜」のだ。

デザイナーとはいえ、僕は絵を描くこともパソコン以外で何か作ることも人並み以上にできる技術を持ち合わせてはなかった。

ボランティアとしてはそんなことはどうだっていいのだ。それぞれがそれぞれの想いを持って、自分のできることを全力でやるだけだ。

でも、「自分の手でモノを生み出す力」という別の視点で改めて自分を見つめ直した時、その「何も生み出せない自分」に正直、愕然とした。

ボランティアとして現地での活動に参加してみると、「自分の手でモノを生み出す人たち」は、僕には本当に輝いて見えた。

壊れた家を建て直す大工さん、子供たちに絵を描いてあげる女の子、歌う人や踊る人、演じる人や演奏する人、切ったり貼ったり、縫ったり・・・・なんでもいいのだ。

パソコンがなくても、電気がなくても、何がなくても・・・

自分の手やその身体ひとつでモノを、空気を、何かを生み出し、誰かを喜ばせることができる人間になりたい。

この経験で、心の底からそう思うようになった。

 

その昔、Goro’sのゴローさんの家に何度かお邪魔させてもらったことがある。

その時ゴローさんが自分のことを「僕は作る人」だっていつも言っていた。

その笑顔に完全にやられてしまった僕は、その時から自分も「作る人」になろう!と心に決めたのだ。

その言葉の本当の意味が、この時なんとなくわかったような気がした。

そんな貴重な体験だった。

 

 

 

全てのことは「今思えば・・・」だけど、

この長い物件探しの放浪期間のおかげで、僕にとっての「理想の空間」は、

トリさんやヒリさん、山崎さんやゴローさん、森永さん、トモの死や東日本大震災・・・・本当にたくさんの素敵な人たちとの出会いや別れ、経験を経て、その「理想」の内容が大きく変わっていったように思う。

「ただ自分が気持ちよく過ごすための空間」を作るより、そこに来たみんなが「何かを感じてくれるような場所」を作ってみたくなった。

「自分の手で何かを生み出しそれを誰かの手に届けられる場所」。工房スペースを作る「意味」がハッキリと見えた。

その空間に最も近い場所で寝起きする場所。そんな自宅が必要だ。

そして、それをできる限り自分の、そしてみんなの「手」を借りて作れたら・・・

 

ちなみに・・・その当時、ゴローさんの部屋にはベッドもなく、いつもソファーで寝てるんだって言っていた。

ソファーの横には作業台があって「起きたらすぐにこの場所で作れるんだよ。それって最高だよ!」と言って笑うゴローさん・・・

マジか、す、すげぇ・・・っと思いつつも、家にはベッドを置いてしまっている自分は・・・・マダマダダメダメヤローなんだな・・・・

修行の日々は続く・・・のだ。

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