story:Volume:15 「宝はいつも足元に?」
2018.11.9
3月の地震から約半年後、再び物件探しを始めた。
ここまで長い期間、物件探しをしているとさすがに各エリアの賃料の相場もつかめてくる。
やはり単純に、人の多いエリア、大きな駅があるエリアの賃料はめちゃくちゃに高い。
渋谷区、目黒区、世田谷区といったような自分自身も過ごし慣れたエリアで一生懸命探してはみるものの、払えそうな賃料で借りれる物件の広さは、理想の半分にも満たない物件ばかりだった。
飲食店としての「立地」を考えるのであれば、やはり駅前や人の多いエリアを「物件の広さ」よりも優先的に考えるべきなんだと思う。
でも、今回は優先順位が違うのだ。まず欲しいのは自分の理想の空間を作るための「充分な広さ」であって、立地は二の次だった。
自分の中のイメージでは「家賃はマックス50万円」まで。
自宅としての家賃と駐車場代を乗っけて考えたとしても、それが上限だと思っていた。
その金額を基準に充分な広さの一棟貸し物件となると・・・古いビル、倉庫、工場・・・・
賃料と広さのバランスを考えると自ずとエリアも絞られてくる。
大田区の倉庫や工場が多いエリアや浅草橋エリア、上野エリア・・・候補として出てくる物件はその辺りのエリアがほとんどだった。
エリアが絞られてくると、自然とそういったエリアに足を運ぶ回数も増える。
この辺りのどこかに、この後自分が住むかもしれないんだ・・・・
街を歩き、空気感を感じながら、自分がその場所で生活するイメージを徐々に強く持つようになった。
物件探しを再開し1ヶ月ほど経った10月のある日、いつものように顔なじみの不動産屋さんからの「定期連絡」がメールで届いた。
もう何度も繰り返してきた日常業務。この日もなにげなく添付されている「物件案内」に目を通す。
3件ほどの物件案内が添付されている。いつもの見慣れたエリア。
大田区、浅草橋、世田谷区・・・・世田谷区?
「お、珍しい。久しぶりに見たな、世田谷区・・・」
とはいえ、今まで世田谷区なんかで自分にとって「まともな物件」がでてきた試しはないのだ。
大した期待もせずに何気なく条件に目を通す。
床面積230平米(内住居スペース70平米)
「家賃47万円/敷金10ヶ月/礼金1ヶ月/共益費ナシ」
店舗やオフィスにも最適!
お? まじ?
充分な広さと、さらには住居スペースまである。
世田谷区っていっても場所、どこなんだろう・・・?
世田谷区鎌田3丁目・・・・セタガヤクカマタサンチョウメ・・・?
これには目を疑った。
だって、僕が5年ほど前から住んでいたのが二子玉川。住所は「セタガヤクカマタサンチョウメ」だったんだから・・・
はて? こんな物件近くにあったっけ? 5年間住んでいても全く気がつかなかった・・・
急に胸がドキドキしてきた。
時計を見ると18時過ぎ。
もうだいぶ外は薄暗くなっていたけれど、物件は目と鼻の先だ。
ひとまず、不動産屋さんに連絡する前に物件をこの目で見てみよう。
すぐに着替えて家を飛び出した・・・・
約3年間。
都内のあらゆるエリアを探し回り、歩き回った物件探しの放浪旅。
もう何百件の物件案内を目にし、何十件の内見をしてきたことか・・・・
そして、その最後の一件。
その物件は、なんと、自宅から徒歩3分ほどの場所に、ひっそりと佇んでいた。
こんなことって・・・・
自分でも思わず笑ってしまうような展開だった。
山崎さんの自叙伝「宝はいつも足元に」・・・・といきたいところだが、どちらかというと「灯台下暗し」・・・だ。
この日を境に、長い長い物件探しの旅はここでようやく終りを告げることになる。
「SOULTREEができるまで」なんて言っておいて、その話が始まるまでに随分と時間がかかってしまった。
さて、いよいよはじまりはじまり・・・・といきたいところだけど・・・・
まぁ、この物件、最初から問題だらけだった。
本当に大変なのはここからだった。
もちろん、この時はまだ、そんなことは知らなかったけれど・・・
ただ、ワクワクした気持ちで、薄暗い路地を足早に。
目指す物件はすぐそこだった。