story:Volume:21 「転がる交渉劇〜その3」
2018.12.7
家賃、保証金の交渉は終わり、あとは大家さん側の工事内容を確認させてもらって、いざ契約!
そんな気持ちで足を運んだ、双方立ち会いでの工事内容の確認の日。
その工事内容の説明を聞いて、オレはちょっと耳を疑った。
だって・・・・
「店舗、事務所使用に最適!」なんてチラシに書いてあったのに、実際にやるのは
「ボロボロのトタン板をはがして、奇麗なトタンに変えますよ」
「割れてる窓やドアは新しいものに変えます」以上。
ザックリ言えばこんな感じだった。
それにしてもこの画像・・・・ウ、ウソではないような・・・・ず、ずるい・・・・
・・・・え?
だって、地面は土・・・・・だぜ? そんなオフィス見たことね〜ぞ。
「トタン1枚」の壁? いくらなんでもそれじゃ〜エアコン効かなくね〜か?
階段も斜めだけど?
鉄骨の補修も必要だろ、これは?・・・・・などなど数え上げたらきりがないが、少なくとも、この工事内容では「店舗、オフィスに最適」というにはほど遠い内容だった。
こんなの、すべて自分で工事してたら、それだけで内装費なんて全部ぶっ飛んじまう。
そもそも、こっちは「借りる人」であって、この物件のオーナーじゃないんだぜ、店舗、オフィスとして貸し出すんなら、建物としての「最低限の工事」は大家さん側でやるのが当然だろ!っという話を大家さん側に伝えた。
もちろん、もうちょっと優しく。
たとえば、
せめて、床はコンクリートにして欲しい。
外壁はトタン一枚ではなく、断熱材を入れ、板張りにしてほしい。
鉄骨、階段の補修をしてほしい。
電気、水道、ガスなどのライフラインに関してはしっかり整えてほしい。
など、オレとしては「当然」と思える内容を伝えた。
ここで大家さん、しばし沈黙。
そして2週間が経過・・・・
きっと業者さんなどから、オレが投げた工事の見積もりなどを取っていたのかな。
そして返ってきた答えは・・・
「もう全部そっちでやってもらえませんか?」
は???・・・・・ま、まる投げ?
またまた耳を疑ったが、この話には続きが。
「保証金、家賃などを下げるので、そのお金で外装を含む諸々の工事をそっちでやってもらえませんか?」という話だった。
きっと、オレから投げた様々な工事内容をみて、正直「めんどくさく」なっちゃったんだろうな・・・
まぁ実際に、ひとつひとつの工事を「どちらが大家側で? どちらが借りた人で?」って決めていくのは、その項目数の多さを考えると、相当に骨が折れるのは確かだ。
もちろん、どっちも「できれば相手にやらせたい=金を使いたくない」わけで、それを話し合いで決めていくのはすごい時間がかかる。
しかも、間に仲介役の不動産屋さんが入ればなおさらメンドクサさは倍増だ・・・。
僕自身、この時はもうめんどくさくなって「だったらもう、借りるのやようかな」と思うことが多かった。
外装なんて自分でやったら金がかかりすぎるし、そもそも、なんで人の建物を自分で金払って修繕する必要が? それはさすがに大家さんのやるべきことなのでは? ちょっとおかしくね〜か? という気持ちが強くて、何とも悶々とした日々が続いた。
あの物件借りたいな。でも、さすがに外装をやることなんて考えてもなかったから、実際自分でやろうにも、まず金足らね〜だろうな・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・ん? で、実際は外装費っていくらくらいかかるんだろ?
よくよく考えたら、外装のことなんて大して考えてなかったから、それが分かってなかった。
「それはオレがやることじゃね〜だろ!」って気持ちが強くて、そこには意識がいかなかった。
でも、冷静に考えれば、もし、外装にかかる費用を家賃と保証金の値引きで相殺できれば・・・・アリじゃね?
思いついたらすぐ電話!
わずかな希望の光にかけて、さっそく数人の友達と、物件の工事をお願いしようと決めていた大工の棟梁「ヨモさん&レイちゃん」に電話で相談してみた。
そんで、そのときもらった答え(外装にかかる大まかな予算)は、大家さんとの交渉が可能と思われる、まさに「ギリギリ」の数字だった。
ぶっちゃけてしまえば、「ざっと400万円」。
まぁ、たいそうな金額だ。
内装費も考えれば、ちょっと無理がある数字だが、この金額をなんとか埋め合わせる条件を自分なりに考えてみた。
それがこの数字。大家さんに実際に投げた条件だ。
「家賃35万円(3年間)「保証金1ヶ月」「礼金一ヶ月」「フリーレント5ヶ月」。
これに加えて、
でっかい機械などの残置物の撤去。
階段、鉄骨などの補修。
ライフラインの整備。
ざっと計算すると・・・
- 保証金がマイナス5ヶ月で44万円×5=220万円。
- 家賃がマイナス9万円×36ヶ月=324万円。
- フリーレントが3ヶ月延長で44万円×3ヶ月=132万円。
合計 676万円。
この条件なら、もちろん初期投資は増えるけど、2年間も頑張ればきっちり元が取れる条件。
もちろんリスクは高いが、やりきれれば、数字的には最初の条件よりもずっといい。
「さすがにこの条件は飲んでもらえないかもな」という気もしたが、思い切って投げてみよう。
これで無理なら、この物件は諦めよう。
っていうか、実際無理だし・・・・
そう思って投げたオレからの最終条件は、なんと大家さんにそのまま受け入れられた。
そして、長かった交渉劇にようやく幕が下りた。
まぁ、なんとも、ずいぶん時間のかかる契約だ。
そして、何ともリスキーな契約だ。
初期費用、大幅増。
最低2年。そこでプラスマイナスゼロ。
まぁでも、ここまできたら、やるだけだ。
とはいえ・・・
契約書を目の前に、腹の奥の方からリアルな恐怖感がこみ上げてくる。
あぁ、いつものやつだ・・・・
目標や夢は考えたり話している時が一番気楽だ。
でも、それが「リアル」に変わったとたんに緊張感が身を包む。
急に怖くなってくる。
本当にできるのか?
失敗したら・・・?
この先いったい・・・?
何か新しいことを始める時はいつも同じだ。
でも、もとからチャレンジだ。
リスクのないチャレンジなんてない。
やったことがあるチャレンジなんてない。
下っ腹がキリキリ痛むような緊張感が、きっと自分を今以上に成長させる。
実際味わうと嫌なんだけど、この緊張感が、普段では出せないような「カジバノクソヂカラ」を身体の奥から引っ張り出す。
そして、それに見合った「本気さ」が、様々な感動や奇跡を連れてくる。
その本気が生み出す数々のトラブルや失敗談が、数年後に「素敵な思い出」や「最高の酒の肴」に変わる・・・
辛かった高校時代の部活動と一緒だ。
20歳の頃から始めたお店や出版社の時と一緒だ。
それは今までの経験でよくわかってる・・・
そんなコトバを自分に投げかけ、自分で自分を奮い立たせる毎日が始まった。
ただの目標が「リアル」に変わった時だった。
やってみたいけど怖い。怖いけどやってみたい。
嫌いだけど好き。好きだけど嫌い。
まるでバンジージャンプのような・・・・・
「リアル」なことは、いつもそんな感じで・・・・
でも、マイナスもプラスもいろいろ考え尽くした挙句、最後には開き直って
「どうせならやってみよう」と思うのです。
やるだけやっちまえ。
とりあえず、目をつぶって飛んでみた。
契約のお話、これにて。
チャンチャン。