story:Volume:23 「お金と兄と弟と〜その2」
2018.12.18
申請した融資が通らない・・・ヤバい・・・
開業資金がなけりゃ、契約も何もない。
解決策を思案するべく駆け込んだ深夜のデニーズで、ふと「アニキ」の顔が頭に浮かぶ。
おぉ、そうだ・・・・アニキがいたんだった・・・
思い浮かんだのはアニキ。
そのまま2歳年上の実兄「アユム」の顔だ。
アニキの「アユム」とはもちろん生まれた時から一緒なんだけど、20歳の頃から40歳を超えた今でも活動を共にしているから・・・まぁ、考えてみれば本当に長い付き合いだ。
兄弟とはいえ、もう20年以上も一緒に仕事をしているから普通の兄弟とも少し感覚が違う。かといって「仕事仲間」というのも違うので、それを混ぜて2で割った「仕事兄弟」といったところか・・・
元々は普通に仲の良い兄弟だったけれど、そこに大きな転機が訪れたのは僕が18歳、大学受験に失敗し、浪人生として細々と勉強に励んでいた時期だ。
当時20歳だった大学在学中のアニキが突然「俺は自分のバーをやるぜ!」と言い出し、(僕の全財産25万円を笑顔で奪い・・・いや、借り受けて)その数ヶ月後に本当に千葉で自分の店をオープンさせたのだ。
この時の「衝撃」はホント、ハンパじゃなかった。
おそらく、当時の僕にとっては「事件」とも言えるこの出来事が今までの人生の中でも最大の「転機」だったと思う。
テレビの中の「誰か」じゃない。
身近どころか、たった2つ年上の兄貴が始めた自分のお店。
それは当時の自分の中の「できそうなことリスト」のはるか圏外だった。
でも、それを目の当たりにしたときに「できるわけない」が「できるかも」に変わった。
自分の中の「当たり前」や「常識」の基準が完全に変わった。
頭の中のスイッチが「カチッ」と音を立てて切り替わるのを感じた。
まぁ、そこからは山あり谷あり、文字通りジェットコースーターのような人生だったけど・・・
アニキの真似をして20歳で仲間とバーをはじめ、
アニキが「会社を作ろ〜!」と言い出して「有限会社サンクチュアリ」ができ、
今度は「自分の本を出して〜!」と言いはじめて「サンクチュアリ出版」を立ち上げ、にもかわらず、その3年後には「結婚して世界旅行いくからおしまいね〜」と言って2年間の世界旅行に出かけてしまい、こちらは突然のフリー(ター)ダム。
帰ってきたと思ったら今度は「沖縄で自給自足のヴィッレッジ創ろ〜ぜ〜」と言い始めるので沖縄に引っ越し、
その間「もう一回出版社やるか〜」というので、今度は「A-Works」という名前で新しい出版社を立ち上げ本作りを再開して・・・・その他いろいろありながら・・・今に至るわけだけど・・・その間もやれ「ニューヨークで本を出版してみよう」だの、やれ「祭りやろう」だの、その勢いは今もとどまるところを知らず・・・
ここではとても書き切れないので、そこら辺の詳細は高橋歩著の「毎日が冒険」「サンクチュアリ」「LOVE&FREE」「Adventure Life」「人生の地図」などベストセラーにもなった本をぜひご覧ください。
ざっとそんな笑いあり涙あり苦労あり借金ありの20年以上を経て今でも共に本を作り続けてるアニキと一緒に立ち上げた出版社が「A-Works」だ。
そして、そのエーワークスの社長がアニキだ。
・・・・そうだった。
長くやってきた会社があるじゃん・・・・
出版が中心とはいえアニキも僕も飲食経験があったので「自分たちのお店が欲しいよね」という話になり、当時は下北沢に「FREE FACTORY」というcafé &Barもやっていたから、飲食事業も会社としては初めてのことではなかった。
このエーワークスの新しい飲食事業として銀行から融資を受けることはできないだろうか・・・?
それをすぐにアニキに相談した。
自分がやりたいと思い続けていた空間の話は、もう何年も前からアニキにはよく話をしていた。
2000万円の融資を受けたい。
もちろん、会社としてして受ける融資だが、自分が何があっても責任をもって返済するということ。
話したのはそれだけだ。
「オッケー。いいよ」
1枚の書類のやり取りもなく、二つ返事で承諾してくれた。
経理担当のニヘーが全力でサポートしてくれたおかげもあって銀行の方からもすぐにオッケーが出た。
この時ばかりは心底ホッとした・・・
正直な気持ちをいえば、あまり人に言いたくないような、カッコわるい話だ。
本当の意味で「僕個人」の力では開業資金を集めることはできなかったわけだ。でも、それが実話だからしょうがない・・・
その悔しさと情けなさはやはり残った。
「死んでも返す」そう口では言っても、もし本当に僕が死んだら、その金を返すのはやはり会社であり、つまるところ、アニキなのだから・・・
長年やってきた会社の実績、アニキとの信頼関係、弟という立場・・・・色々なものを全部突っ込んでなりふりかまわずかき集めた2000万円だった。
だから少なくとも、この金を返すまでは死んでる場合じゃないのだ・・・
そういう意味では、個人で借りるよりも重たい2000万円だった。
そのお金を大家さんに支払い、契約書にハンコを押した。
そしてついにあの廃墟への「鍵」を手にした。